大人になっても、ふとしたときに思い出す子供の頃の記憶があります。
子供の頃に見た、ふしぎなもののひとつに「赤い海苔」がありました。
わたしが小学校にあがるまえです。
祖母がつくったおにぎりに、赤い海苔が使われていたのです。
そして、その赤い海苔はおいしくなかったのです。
おにぎりそのものをおいしくないと感じさせるくらいに、おいしくなかったのです。
わたしが「おいしくない」といったので、祖母がこまった顔をしていました。
たったそれだけのことなのですが、こんなにおいしくない海苔が売られているのか、と子供心にふしぎに思ったものですから、なんとなく、ずっと記憶にのこっていたのです。
あんなにおいしくない海苔を、いったいどこでつくっているのだろう、とふしぎでした。
そのなぞが解けたのは、つい数年前のことです。
捨て活まっただなかだったでしょうか。
はっきりいつとは覚えていませんが、食器棚の下の戸棚に、赤い海苔が入っていました。
そう、わたしの記憶にのこる赤い海苔とは、「しけた海苔」のことだったのです。
この世の中に、あんなにおいしくない海苔を売っている海苔屋さんなんて、なかったのです。
ただ祖母が、しけた海苔を巻いたおにぎりを、孫に食べさせようとしただけだったのです。
ものを捨てられない祖母らしい話です。
しけた海苔をもとに戻すことはできませんが、佃煮にするとよいらしいです。
わたしはまるまる捨ててしまいましたけれど。
わたしが食べきれなかった、あのおいしくないおにぎりを、祖母はどうしたのでしょう。
捨てられない祖母のことだから、あのあと、やはり食べたのかもしれない。
でも、あの海苔はさすがにはがして食べたのではないか、と。
だって、しけた海苔の巻かれたおにぎりは、子供心にもほんとうにおいしくなかったんですよー。
ではまたー。