近所のスーパーで、ある老夫婦を見かけたことがあります。
その老夫婦について、夫に話したくなるくらい、なんというか、いやあな気持ちになったのです。
なんともいえない悲しみ、どうにもならない怒り、そして、やるせなさ。
どーにかならんものなのかね。
さいきんは見かけなくなったのですが、とても印象にのこる老夫婦だったのです。
パン売り場の老夫婦
さいしょは、仲のいいご夫婦だと思ったのです。
年のころは、そう70代後半から80代くらい。
はじめて見かけたときに、おそろいの帽子をかぶっていました。
だから、仲のいいご夫婦に見えたのです。
しかし、それがおおきなかんちがいだった、とわかったのは、わたしが老夫婦のちかくへ行ったときです。
わたしはたまたま、パン売り場でその奥様のとなりに立ちました。
すると、ご主人の言葉が聞こえてきたのです。
「なんでパンなんか見てるんだ、パンなんか買わないだろう、買わないものなんか見てないで、さっさと……」
というような、ちくちくねちねちとした罵声をですね、しずかではあるけれど、あきらかにののしりの言葉を、えんえんと奥様のちかくでささやいているというか、となえているというか……。
えんえんと、ですよ。
ずっと、ぶつぶつ、ぶつくさ、いいつづけているのです。
わたしは思わず、奥様の顔を見ました。
奥様の顔は、無表情でした。
奥様は、背後にぶつぶつと文句だけをいうご主人をしたがえて、怒りをにじませたような、強い意思のある無表情な顔で、買い物カートを押していました。
奥様はご主人をまったく相手にしないのです。
無表情で無言で、それだけがゆいいつの対抗できる手段であるかのように、ふるまっているのです。
相手にされないから、文句をいいつづけているのか。
こうなるまでに、どうにかできなかったのか。
わたしは失礼なくらいに、その老夫婦をガン見してしまったのでした。
だって、そんな人と生活してて、結婚してて、いいんですか?
だいじょうぶなものなのですか?
他人事ながら、そんなことを考えてしまったのです。
100円ショップの老夫婦
またあるときに、100円ショップで買いものをしていると、なにやらうるさいのです。
店内のどこかで、男性がいちゃもんをつけているような声が聞こえてきました。
ちょっと柄のわるい人が、家族に文句をいってるみたいな感じでした。
うるさいなーと思いつつ、こっそり顔を見に行きました。←40代主婦の好奇心
すると、おどろいたことに、いつか見た老夫婦なのです。
ご主人の声は、以前にもましてヒートアップ!
奥様の無表情、冷えた怒りはあいかわらずです。
なんだろう、なんでしょう、もしかして耳が遠くなったとか、痴呆の症状でしょうか。
それまでは奥様だけに聞こえるような、ぼそぼそとした話しかただったのに、おおきな声で罵倒していました。
身なりのいいご主人なだけに、口の悪さにおどろきます。
もはや、周囲の目なんてまったく気にしていませんでした。
いや、もともとご主人は他人を気にするそぶりなんてありませんでした。
奥様と目を合わせることもなく、ずっと文句をいいつづけていました。
そして奥様もあいかわらずー。
それでも、夫婦なのだ、という。
いや、確認したわけじゃないですから、夫婦じゃないかもしれない可能性だってもちろんあるのですが、夫婦じゃなかったら、あんなのいっしょに歩かないよ、夫婦だとしてもあんなのいっしょに歩かないよ、おかしいよ、って思うから夫婦だと思います。
やっぱり、女性の自立かー。
経済的な自立は、しておいたほうがいい。
だって、離婚に踏み出せないのは、ほとんどのばあい経済的な問題ですから。
そんなふうにつよく思った、ある老夫婦の姿でした。
ではまたー。