ミケ子、というのは近所のスーパー近辺を根城にしている地域猫(三毛猫)に、わたしが勝手につけた名前である。
わたしがその猫について家族に話すときの呼び名がミケ子なのである。
三毛猫はほとんどメスで、オスが珍しく、船上では守り神とされた話を聞いた覚えがあるから、たぶん、ミケ子はメスであろう。
そんな前提で、ミケ子の話をする。
ミケ子は、4、5年前から、近所のスーパー近くの植え込みにあらわれた。
ミケ子は人なつこい猫
ミケ子はもう成人した猫で、以前はどこぞで飼われていたのではないかと思う。
おとなしい、人なつこい猫である。
植え込みの中から、にやあにやあ、と鳴く。
見ためは肉づきがよく、ふてぶてしい姿をしているが、泣き声はおどろくほどにかわいい。
いわゆるギャップ萌えである。
にやあ、にやあ、と鳴く。
あの体格で、そのような甘えた、かわいい声を出すのか、猫は。
そんなミケ子であったから、人が寄ってくる。
いや、ミケ子が寄ってくるのである。
わたしですら、たびたび、植え込みの中から「にやあ、にやあ」と呼ばれる。
そのくらいに、人なつこい猫なのである。
ミケ子と女子高生
だから、ミケ子を見かけるようになってから数ヶ月後、春4月の夕暮れ、ミケ子が女子高生になでられていても、なんら不思議はなかった。
ところが、女子高生はスマホを耳にあてて、だれかと会話しているのである。
会話しながら、ミケ子をなでているのであった。
通話相手はどうやら家族、おそらくは母親であろう。
父親でもいいけど。
「すっごく、おとなしいの」
と、女子高生は通話相手にむけて話していた。
そう、こまかい表現は忘れてしまったが、ミケ子を売り込んでいるのである。
ときは春、新入生が駅周辺を行き来する季節であった。
はじめてミケ子を見た女子高生が、「ねえ、飼ってもいいでしょ」と家族に訴えている場面に出くわしたのである。
いまどきの女子高生は、猫をお持ち帰りするまえにスマホで確認する。
ああ、これでミケ子は飼い猫となるのかもしれない。
通りすがりに女子高生の話を聞いた、アラフィフ主婦はそう思った。
ミケ子の癒し
しかし、次の週、ミケ子はいた。
あのように、ミケ子を飼おうとする人は絶えないのかもしれないが、いまもミケ子はいる。
しかも、去年あたりから、ミケ子を求める人々を見かける機会が多くなった。
食べものを与えられているミケ子の姿も、見たことがある。
いつもミケ子がいる植え込みのあたりで立ち止まる人。
植え込みをのぞき込んでいる人。
あたかも植え込みの中に手を入れているかのように見える人。
みな、ミケ子を求めている人々である。
去年から、そのような人々が増えた。
コロナ禍のせいであろうか。
さきの春休み、息子とともに外出したときに、スーツを着たサラリーマン風の若い男性がミケ子をなでていた。
その姿に、息子はおどろいていた。
「癒しだよ。モフモフしてあたたかいんだよ」
駅に近い、スーパーわきの植え込みに定住しているミケ子は、おそらく多くの人々の癒しとなっている。
そのように思う。
ここしばらく、ミケ子を見ない。
だから、書いておく。
ではまたー。